近年増加傾向にある中小企業のM&A
M&Aとは、Mergers (合併) and Acquisitions (買収)の略であり、かつては、大企業だけの話というイメージがありました。しかし、今や中小企業にとっても決して特別なことではなくなっています。
独立行政法人中小企業基盤整備機構の作成した、『令和6年度に認定支援機関等が実施した事業承継・引継ぎ支援事業に関する事業評価報告書』の9頁によりますと全国の事業承継・引継ぎ支援センターへの相談者数は、23,540者とあります。また、同センターで、窓口相談にて課題整理を実施した後、民間のM&A専門業者への橋渡しや同センター内の情報を活用した第三者とのマッチング支援を行っていますが、そのような支援を行い、第三者承継の成約した件数は 2,132 件と過去最多となりました。(上記報告書10頁)
このように後継者不在の解決策やさらなる成長の手段として、M&Aは「身近な選択肢」となっているのです。この大切な「会社のバトンタッチ」について、弁護士、公認会計士、税理士等の専門家が主に対応しているように思われがちですが、実は、司法書士も登記の側面からM&Aを支え、スムーズに手続きを完結させるお手伝いをしています。
M&A時に司法書士が担う役割とは?
①役員変更登記
まず、中小企業のM&Aにおいて、一番多いスキームは、株式譲渡です。譲受人は、株式譲渡により対象会社の支配権を取得します。この株式譲渡の実行と同時に行われるのが役員の入れ替えです。具体的には、対象会社側(売り手側)の役員が辞任し(役員がそのまま残ることもあります。)、譲受人側(買い手側)の新しい役員が就任します。これに伴い、司法書士は、役員変更登記を申請します。
②定款変更
M&Aを機に、買い手側の意向に合わせて対象会社の定款を変更する場合もあります。
具体的には、対象会社において、取締役会や監査役を設置又は廃止したり、取締役や監査役の員数規定を見直すといったことが挙げられます。
次に、株式の譲渡制限規定も機関設計の変更に伴い変更を行うこともあります。また、買い手側がローンを利用する場合に多いです印象を受けますが、対象会社の株式の譲渡制限規定の文言を特有の表現に変更するように要請されることもあります。さらに、株券発行会社の定めを設けたり又は廃止することもあります。株券不発行会社が主流の現在において株券発行会社に変更する意味は、買い手側がローンを利用する場合に株券を担保にとる場合があるためです。
その他、買い手側から対象会社へ役員が派遣されることもあり、これに伴い、機関設計等の各種要件を満たす場合に限られますが、非業務執行取締役等の責任制限の定めや役員等の責任免除の規定を設ける場合もあります。
最後に、対象会社の社名(商号)を変えたり、対象会社のオフィスを移転したり(管轄外本店移転)、事業の内容(目的)を整理したりするということもあります。
司法書士が、上記の定款変更に関する手続きのお手伝いをしたり、上記の中で、登記事項である場合はその登記を申請します。
③組織再編
M&A時に組織再編を行うこともあります。M&Aのスキームで、ある事業だけ吸収分割で移管させる場合や、M&Aの前段階である事業だけ新設分割で切り出し新会社を設立し、新会社の株式の譲渡を行うという例が挙げられます。
また、M&A実行後、少し時間があいた後に組織再編を行うこともあります。例えば、株式譲渡により譲受人会社と対象会社との間に100%親子会社関係が構築された後に、譲受人会社(100%親会社)・対象会社(100%子会社)間で吸収合併が行われることもよくあります。
最後に、非常に稀ですが、M&A実行前に、対象会社の株主について、例えば、株券を伴わない株式譲渡を行われたことがある等、株主の所有する権利が不明確な場合において、組織再編を利用し、対象会社の株主をいわば強制的に確定させるような場合にも行われます。(こちらのコラムもご参照ください。)
司法書士は、組織再編における債権者保護手続きのための公告やその登記のサポートを行います。
④免責の登記
M&Aに際して事業譲渡や会社分割が行われ、譲受会社(承継会社)が譲渡会社(分割会社)の商号や屋号を続用する場合に、譲渡会社(分割会社)の商号続用による債務引受責任の発生を防止するために免責の登記が行われることがあります(会社法第22条第2項)。免責の登記に関しては、そもそも免責の登記がされている会社の登記事項証明書を見たことがない方も多く珍しい登記と思われがちですが、M&Aにおいては決して珍しいことではありません。免責の登記についての詳細はこちらのコラムをご参照ください。
司法書士は、免責の登記が必要な場合はその登記を行います。
⑤解散・清算手続き
事業譲渡や会社分割の効力発生後、対象会社(譲渡会社・分割会社。つまり、事業を切り出された方。)について、そのまま、解散・清算手続きに入ることもあります。なお、債務超過であれば、特別清算(会社法第510条以下)となります。
司法書士は、解散、清算人の登記、解散公告等、清算手続きをサポートします。
⑥不動産登記や企業価値担保権の登記
M&Aの前段階で、社長の名義の不動産を会社名義にするため利益相反に注意しながら行う所有権移転登記、M&A時にローンを利用する場合は、担保権の設定、抹消等、合併や会社分割を行った場合の所有権移転登記等、商業登記だけでなく、不動産登記も必要な場面もあります。また、M&A時における企業価値担保権も利用も今後進むのではないかと考えます。
司法書士はM&A時に商業登記だけでなく不動産登記等もサポートをしております。
M&Aにおける司法書士の「クローザー」としての役割
さて、司法書士がM&A時に担う役割について、主なものを述べましたが、M&A時に司法書士の役割は「クローザー」としての役割です。つまり、クロージング時にCP書類を全て確認し、「不備不足がないことを確認すること」。これがM&A時に司法書士に求めれる役割です。この役割には、クロージング時に問題が発生しないように、クロージングの前段階から準備を怠らないことも含まれます。
この役割は、司法書士が昔から行ってきた、不動産の取引時の決済業務と本質は同じだと思います。M&Aは、最終的に、登記事項証明書に反映されなければ意味がありません。株主は登記事項ではないですが、M&Aに伴う登記手続きは上記のとおり様々です。
司法書士は昔から不動産の取引時の決済業務を担い、売主から買主への名義変更ができ、売買代金が買主から売主へ着金することも幾度となく確認してきたと思います。
司法書士は、この長年培ってきた専門的な知見をM&Aの場面に生かし、中小企業の事業承継等のM&Aを登記の側面から支えているのです。
スムーズな承継のために、M&A時には司法書士へご相談を。
M&Aは、契約書にサインして終わりではありません。役員の交代から定款の変更、組織債権、資産の名義変更まで、実は「膨大な手続きの連続」です。この膨大な手続きを他の士業の先生や専門家と一緒に、司法書士は、登記という専門技術を軸に、法務手続きをトータルでサポート致します。
M&Aや事業承継、MBOに関するご相談等は、下記のお問い合わせフォームよりお問い合わせください。
(参考:月報司法書士2026.4 №650 78頁~81頁)
著者:代表司法書士 佐々木 翔
東京都世田谷区南烏山4丁目3番8号マノアール世田谷301
司法書士あおぞら法務事務所

