【株券発行会社における株式譲渡の落とし穴】 株券の交付のない株式譲渡があった場合の実務対応は非常に難しい ~だからこそ株式譲渡は必ず専門家にご相談を~

株券に関する歴史的背景と法令改正の経緯

 平成16年改正商法以前は、全ての株式会社において、株券発行が義務とされていました(平成16年改正前商法第226条第1項)。したがって、平成16年改正商法以前に設立された株式会社は本来、株券を発行している必要がありました(なお、昭和41年商法改正以降、株券不所持申出が可能であったため、不所持の申出がされている場合はこの限りではありませんでした。)。しかし、株券を発行するには、株券の印刷代、印紙代がかかるうえ、現在は株券の記載事項ではありませんが、当時は株券に株主の氏名の記載が必要であったため、株券の自体への氏名の記載や変更も必要で、株券の発行・管理にはコストがかかりました。また、創業者一族によって運営されてきた中小企業においては株式譲渡が行われる場合は限定的であり、株券を発行する必要性が低かったため、発行・管理コストや必要性の低さから中小企業において株券を発行していなかったという事情があります(横井伸編著(2023年)『M&Aの視点からみた中小企業の株式・株式管理』中央経済社 101頁参照)。

 その後、会社法が施行され、会社法施行日(平成18年5月1日)時点で、株券を発行しない旨の定款の定めがある場合を除き、株券を発行する旨の定めがあるとみなされました(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下、「整備法」といいます。)第76条第4項)。これに伴い、株券発行会社である旨が登記されたものとみなされ(整備法第113条第4項)、その旨の登記がなされています。

 このような経緯から、会社法施行前に設立された中小企業では、株券不発行会社とする定款変更が行われないまま、会社法上の株券発行会社となっていることが少なくありません。

株券発行会社における株式譲渡には株券の交付が必要

 株券発行会社において、株式を譲渡するには、その株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じません(会社法第128条第1項)。
 ここで注意すべきは、株券の交付は第三者に対する「対抗要件」ではなく、当事者間における「権利移転の効力発生要件」であるという点です。つまり、株券を交付せずに譲渡の合意だけを行っても、法的には株式は譲受人へ移転しておらず、譲受人は株主としての地位を取得できません。

 しかし、中小企業においては、株券発行会社(会社法第117条第7項の定義参照)でありながら、株券を交付せずに株式譲渡を行っている場合があります。特に過去に行われた株式譲渡において、株券を交付せずに譲渡しているケースが実務上散見されます。

 株券の交付のない株式譲渡が行われた後に当該譲受人が別に株式譲渡が行ったとしても、過去の株式譲渡の瑕疵が治癒されることはありません。会社法上そのような規定がないためです。また、株券発行会社から株券不発行会社に定款の変更を行ったとしても、株券発行会社の時点で行われた株券の交付のない株式譲渡が有効となるわけでもありません。これも同じく会社法上そのような規定がないためです。

 したがって、過去に株券の交付のない株式譲渡が行われている場合には、株主名簿に記載された株主が真の株主ではないこととなっており、株主名簿の記載と実際の株主とが相違していることとなります。このように、株主名簿の記載と実際の株主とが相違してしまっていると、株主総会の手続きにも瑕疵が生じますし、事業承継やM&A等においても大きな問題となります。

株券の交付のない株式譲渡があった場合の実務対応策は? ~どの対応策も現実的には非常に難しい~

 株券発行会社において株券の交付のない株式譲渡が行われていることが判明した場合、どのような対応策があるのでしょうか。

 株券交付をやり直す ⇒株式譲渡の瑕疵が必ずしも遡及的かつ完全に治癒される明確な根拠がなく、また、現実的には非常に難しい

 株券交付を欠いた過去の株式譲渡について「では、株券交付をやり直せばいいのではないか(過去の株式譲渡に関する株券交付手続きだけを実施する)」という方もおられるのではないでしょうか。株券の交付をやり直したからといって、株式譲渡の瑕疵が必ずしも遡及的かつ完全に治癒される明確な根拠があるわけではありません。また、この方法は、過去の株主が協力が必要となります。協力して頂けない場合やこれをきっかけに権利主張等してくる場合もあり得ます。一番多いのは、やはり、過去の株主に連絡がとれない場合や過去の株主が死亡しているという場合です。そのため、現実的には非常に難しいと思慮します。

 組織再編手続を利用する方法 ⇒コストや時間がかかる

 実務上、直近でM&A 等の取引が計画されている場合に利用されていることがあります。

 これは、組織再編無効の訴えの提訴期間を考慮した方法です(柴田堅太郎著(2018年)『中小企業買収の法務 事業承継型M&A・ベンチャー企業M&A』中央経済社 65頁参照)。新設分割を例に理論構成を簡単に申し上げますと、まず、新設分割を行い、新会社を設立します。そうすると組織再編無効の訴えの提起期間は法定されており、その期間を経過すると当該組織再編行為について何人も無効が争えなくなります(新設分割の場合は、会社法第828条第1項第10号)。つまり、この新設分割後に、過去の株券のない株式譲渡が行われたとして以前の株主が登場したとしても、以前の株主も何も権利主張しなくなるということです。M&A等の場面では、そのうえで、新設分割設立会社の株式を譲渡するという方法がとられる場合があります。

 しかし、コストの問題や(一部例外はありますが、)組織再編行為においては債権者保護手続きが必要になりますので、時間がかかりますので、この方法を採用するのは、M&A等の取引が計画されているような場合の非常に限定的な場合に限られるものと思慮します。 

株券の交付のない株式譲渡があった場合の実務対応は非常に難しいので、株式譲渡は必ず専門家にご相談を

 上記のとおり株券の交付のない株式譲渡があった場合の実務対応は非常に難しいので、株式譲渡(売買・贈与)を行う際は必ず専門家にご相談ください。中小企業の場合、身内に株式を譲渡することがほとんどだと思いますが、身内であっても当然、会社法に従った手続きが必要になります。当事務所では、株券発行会社・株券不発行会社の株式譲渡手続一式(書類作成等)をサポートしております。

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著者:代表司法書士 佐々木 翔


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