所有者不明の土地が買える!?売れる!?  ~「所有者不明土地・建物管理制度」の解説とその申立手続~

年々増えている所有者不明の土地・建物

 「隣の空き地、何十年も放置されているけれど、持ち主が誰なのかわからない」、「相続登記がされないまま代替わりを繰り返して、今の所有者が誰なのか特定できない」最近、当事務所でもこういった「所有者不明の土地」に関するご相談が非常に増えています。

 今回は、そんな「所有者不明土地・建物」を売却したり、適切に管理したりするために創設された所有者不明土地・建物管理制度について、制度の解説とこの制度を使って所有者不明の土地を売却(または取得)する方法や、具体的な申立手続きについて、わかりやすく解説いたします。

なぜ所有者不明土地・建物管理制度ができたのか ~旧制度との違い

 日本全国で、登記簿を見ても所有者がわからない、あるいは所有者はわかっても所在(連絡先)がわからない土地・建物が増え続けています。相続が発生しても登記の名義変更(相続登記)をしないまま何十年も放置されたり、相続人がねずみ算式に増えて一部と連絡が取れなくなったりすることが主な原因です。

 このような不動産は、『隣地の方が迷惑を被っていても対応を求める相手がわからない』、『公共事業や再開発の用地として活用したくても交渉相手がいない』、という深刻な問題を引き起こします。

 従来から、所有者が行方不明の場合の不在者財産管理制度(民法第25条)や、相続人の存在が明らかでない場合の相続財産管理制度(改正相続法による改正前民法第952条)は存在していました。しかし、これらは対象者の「財産全般」を管理する制度であるため、特定の一筆の土地だけを何とかしたい、という場面には手続の負担(予納金の高額化など)が大きく、費用対効果の点で使いにくいという指摘がされてきました。また、そもそも『誰が所有者か全く特定できない』ケースには、これらの制度自体を利用できないという根本的な限界もありました。

 そこで、令和3年(2021年)の民法改正(令和5年(2023年)4月1日施行)により、特定の「土地」または「建物」だけに的を絞って管理を行うことができる所有者不明土地管理制度および所有者不明建物管理制度が新たに創設されました(民法第264条の2から第264条の8)。

所有者不明土地(建物)管理命令とは

 この制度の中心となるのが、裁判所が発令する「所有者不明土地管理命令」(建物の場合は「所有者不明建物管理命令」)です。

 民法第264条の2第1項は、次のように定めています。※わかりやすくするため条文一部省略して記載しています。

裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(中略)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分(所有者不明土地管理命令)をすることができる。

 建物についても、ほぼ同じ内容が民法第264条の8第1項に定められており、同条第5項により第264条の3から第264条の7までの規定が建物にも準用される形になっています。

要件を整理すると、次の2点がポイントです。

  • 所有者を知ることができない、又はその所在を知ることができないこと
    • 自然人が所有者であれば、登記簿・住民票・戸籍などを調査しても行方がわからない状態、法人であれば法人登記や代表者の住民票を調べても連絡が取れない状態を指します。
  • 管理を命じる必要があると認められること
    • 典型的には、誰にも管理されずに放置されている状態が該当します。すでに他の財産管理制度(不在者財産管理など)が利用されている場合は、重ねて利用する必要性が認められないこともあります。

 この命令が発せられると、裁判所が選任した所有者不明土地(建物)管理人が、その不動産に関する管理・処分の権限を専属的に持つことになります(民法第264条の3第1項)。もとの所有者がいたとしても、管理命令が出ている間は、管理人が管理・処分の権限を行使します。

 なお、マンションなど区分所有建物の専有部分・共用部分については、この所有者不明建物管理制度の対象外とされており、別途、建物の区分所有等に関する法律に基づく「所有者不明専有部分管理命令」等の制度が用意されています。

管理人はどこまでのことができるのか  ~売却の可否~

 「管理人が選ばれても、結局は管理するだけで、売ってもらうことはできないのでは?」という疑問を持たれる方も多いのですが、そうではありません。

 管理人は、保存行為や、対象不動産の性質を変えない範囲での利用・改良行為であれば単独で行うことができます(民法第264条の3第2項各号)。これに加えて、裁判所の許可を得れば、所有者の同意がなくても対象不動産を売却することができます(同項柱書本文)。

 これはこの制度の大きな特徴です。所有者の意思確認ができないために塩漬けになっていた土地・建物についても、

  • その土地を購入したい者(民間の購入希望者)
  • 公共事業の実施者など

が「利害関係人」として申立てを行い、選任された管理人から不動産を買い受ける、という形で土地の流動化・有効活用が図られることが期待されています。実際に、購入計画が具体的な民間の購入希望者も「利害関係人」に当たると考えられています(利害関係人については、『申立ての手続きの流れ』も参照ください)。

 なお、売却した際の代金は、管理人の報酬や諸費用が差し引かれ、最終的に残ったお金は、将来所有者や相続人が現れた際に受け取れるよう、管理人が供託(国の機関にお金を預ける手続)をします。

申立ての手続きの流れ

 実際に制度を利用する場合の大まかな流れは、次のとおりです。

(1) 申立てができる人(申立人適格)

 申立てができるのは、対象となる土地・建物の管理について利害関係を有する者です(民法第264条の2第1項、第264条の8第1項)。単なる隣人というだけでは足りませんが、たとえば、

  • 管理不全状態によって不利益を被っている隣接地の所有者
  • 共有者の一部が不明・所在不明になっている場合の他の共有者
  • 用地取得を進めたい公共事業の実施者
  • 具体的な購入計画を持つ民間の購入希望者

などは、利害関係人に当たるとされています。また、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」に基づき、国の行政機関の長や地方公共団体の長も一定の場合に申立てをすることができます。

(2) 申立先(管轄裁判所)

 申立ては、対象となる土地・建物の所在地を管轄する地方裁判所に対して行います(非訟事件手続法の関連規定による)。管理命令の手続は、令和5年施行の改正非訟事件手続法および最高裁判所規則である「共有に関する非訟事件及び土地等の管理に関する非訟事件に関する手続規則」(令和4年5月13日最高裁判所規則第13号)に沿って進められます。

(3) 必要な資料

 おおむね次のような資料の提出が求められています。

  • 申立書
  • 対象不動産の登記事項証明書
  • 所有者・共有者の所在等について調査を尽くしたことがわかる報告書
  • 公図や地図に準ずる図面、住居表示までの経路図
  • 固定資産評価証明書など不動産の価格を示す資料

 「調査を尽くした」ことを裁判所に示す必要がある点がポイントで、登記簿・住民票・戸籍等の公的記録をどこまで調べたかが問われます。この調査は司法書士が業務として日常的に行っている戸籍・住民票・登記の調査と重なる部分が多く、司法書士に相談する価値が大きいところです。

(4) 予納金と登録免許税

 管理人の報酬や管理に必要な費用に充てるため、申立人は一定額の予納金をあらかじめ納める必要があります。管理費用は本来その不動産の所有者が負担するのが原則ですが(民法第264条の7第2項)、実務上は申立人が予納金を立て替える形になります。管理が終了して予納金に残余があれば返還されますが、見通しを超える費用が必要になった場合は追納を求められることもあります。

 また、管理命令が発令されると、その旨を登記するための登録免許税(不動産の価格の1000分の4)も別途必要になります(令和5年3月28日民二第533号民事局長通達)。

(5) 発令後の流れ

 裁判所は、要件が備わっているかを提出資料で審理し、必要に応じて審問期日を開くこともあります。無事に管理命令が発令され管理人が選任されると、管理人による調査・管理・(裁判所の許可を得た上での)売却などが進められます。売却など命令の目的が達成されると、原則として管理命令は取り消されます。

利用にあたっての留意点

 この制度は画期的である一方、実務上は次のような点に注意が必要です。

「利害関係人」に当たるかどうかの見極め

 ⇒ご自身の立場が利害関係人といえるかどうか、事前の検討が重要です。

時間と費用がかかる

 ⇒調査・申立書類の準備、裁判所での審理、予納金の準備など、一定の時間と費用を要します。

所有者不明土地上に所有者不明建物が存在している場合は対象不動産ごとに申立てが必要

 ⇒土地と建物両方を管理命令の対象とするためには、両制度は別途の制度であるため、土地と建物は別々に申立てを行う必要があります。

区分所有建物は対象外

 ⇒上記でも触れましたが、マンションなどは別制度(区分所有法上の所有者不明専有部分管理命令等)によることになります。

所有者不明の土地・建物、空き家の問題についても積極的にご相談を承っております。

 所有者不明土地・建物管理制度は、これまで「所有者がわからないから」という理由で身動きが取れなかった不動産に、法律的な解決の道筋をつける制度です。ただし、制度の利用には、要件の判断や必要書類の収集、裁判所への申立等専門的な知識と経験が求められます。

 「隣の空き地・空き家をどうにかしたい」、「相続登記が長年放置された土地を売りたい・活用したい」といったお悩みをお持ちの方は、まずは司法書士にご相談ください。戸籍・住民票・登記記録の調査は司法書士が日常的に扱う業務であり、申立てに向けた資料収集からサポートすることができます。

 所有者不明の土地・建物や空き家に関するご相談は下記のお問い合わせフォームよりご連絡ください。

(参考文献:潮見佳男他編著(2023年)『Before/After 民法・不動産登記法改正』、裁判所ホームページ『共有に関する事件(非訟事件手続法第三編第一章)、土地等の管理に関する事件(非訟事件手続法第三編第二章)』)

著者:代表司法書士 佐々木 翔


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司法書士あおぞら法務事務所