免責の登記とは?
事業譲渡においては、当該事業譲渡契約において引受けをすると定めた譲渡会社の債務のみが、譲受会社に移転します。
しかし、譲渡会社の商号を続用する場合は、事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うとされております(会社法第22条第1項)。
譲受会社が、譲渡会社の商号を続用したいが、その債務までは引き受けたくないという場合もあります。そこで、会社法第22条第2項では、以下のいずれかの措置を講じることで、この責任を免れることができると規定しています。
①遅滞なく譲受会社および譲渡会社から、第三者に対し譲渡会社の債務を譲受会社が弁済する責任を負わない旨を通知する
②遅滞なく譲受会社が、譲渡会社の債務を譲受会社が弁済する責任を負わない旨を登記する
上記の②が『免責の登記』と呼ばれるものです。
免責の登記の申請方法及び必要となる書類並びに登記の内容は?
この免責の登記は、一般的には下記の書類を準備し、譲受会社が申請します。
譲渡会社で準備するもの
⇒譲受会社が免責の登記をすることについての承諾書、印鑑証明書、登記事項証明書
譲受会社で準備するもの
⇒委任状
上記の承諾書、委任状には法務局に届出した印鑑の押印が必要です。
また、上記の印鑑証明書、登記事項証明書は譲渡会社と譲受会社が同じ法務局の管轄であれば省略できます(異なる法務局の管轄の場合でも会社法人等番号を提供することで省略も可能です)。
登記が完了すると、譲受会社の登記記録の「商号」の欄の下の部分に「商号譲人の債務に関する免責」の欄が設けられ、一般的に下記のような内容が登記されます。
「当会社は令和○年○月○日事業譲渡を受けたが、譲渡会社である株式会社○の債務について、当会社が承継するものとされた債務を除き、弁済する責任を負わない。」
商号の続用はしない場合でも、屋号の続用がある場合には免責の登記をすることができる
事業譲渡に際して、商号の続用がなくとも事業に関する屋号の続用がある場合には、免責の登記ができるとされております(登記研究674号97頁以下参照)。
ここで、この場合の免責の登記の内容について、屋号を登記の内容に含むのか含まないのかについて議論があります。屋号はそもそも登記事項でないため問題となります。
この点について、屋号は、登記事項ではないため、屋号を登記の内容に含む必要がないとする見解があります(登記研究674号99頁)。
一方で、屋号を記載する内容で登記できている実例が存在します(登記情報593号9頁、当職も屋号を記載する内容で登記した実績があります)。
屋号を記載する内容での登記の可否は管轄法務局の登記官により、判断が分かれるところです。そのため、当事務所では必ず事前に管轄の法務局へ照会状を提出し確認をしております。
屋号を記載する内容の登記できている実例(上記の登記情報や当職が屋号を記載する内容で登記を実行した登記事項証明書)を提供することで概ね、屋号を記載する内容の登記できるとの回答を頂くことが多いです。
しかし、東京都内の法務局でも屋号を記載する内容での登記は不可という回答があったこともありました。そのため、屋号を記載する内容で登記を希望する場合、事前に管轄の法務局への確認は必須と考えます。
なお、屋号を記載する内容での登記の場合の登記記録は、下記のような内容になります。
【事例】
譲渡会社(商号「株式会社A」)が、お弁当屋(屋号「B」)を営んでいたところ、譲受会社(商号「株式会社C」)が事業譲渡により当該お弁当屋の事業を譲受け、お弁当屋の名称である屋号「B」を続用することし、当該事業にかかる既存の債務について、譲受会社へ承継するとされた債務を除き、譲受会社は承継しないことを合意。これに基づき免責を登記をした。
「当会社は令和○年○月○日事業譲渡を受けたが、譲渡会社である株式会社A(事業上使用される名称「B」)の債務について、当会社が承継するものとされた債務を除き、弁済する責任を負わない。」
事業譲渡ではなく会社分割の場合も免責の登記はできる
会社分割には、ある事業を、別の会社に承継させる吸収分割と、新たに設立する会社に承継させる新設分割がありますが、いずれの場合であっても、会社分割に伴い承継会社又は設立会社が商号又は屋号を続用する場合に、免責の登記は可能とされております(登記研究675号247頁、740号26頁以下)。
なお、新設分割の際に免責の登記をする場合は、新設分割による設立登記と免責の登記を同一の申請情報に記載して申請します。
新設分割による設立登記の登録免許税は『登録免許税法別表第一24号(一)ト』であり、具体的には、設立する会社の資本金の額に1000分の7を乗じた金額となります(なお、計算の結果が3万円未満の場合は3万円となります)。一方、免責の登記の登録免許税は『登録免許税法別表第一24(一)ツ』とされており、申請1件につき3万円です。
上記のとおり区分が異なりますので、それぞれ課税されます。
免責の登記は抹消できるのか?
さて、免責の登記は上記のとおり、登記記録では、「商号」の欄の下の部分に「商号譲人の債務に関する免責」の欄が設けられ、その旨が登記がされます。登記される場所が「商号」の下なので、場所が場所であるため、非常に目立ちます。
そこで、免責の登記をした後に、「免責の登記を抹消したい」というお問い合わせをされるお客様が少なからずおります。
結論から申し上げますと、2025年現在の法令上、免責の登記を抹消することはできません。つまり、一度、免責の登記をした場合は、ずっと当該登記がされ続けます。
これは、商業登記法上、抹消できる場合が限られており、免責の登記が、抹消できる場合に該当しないためです(商業登記法上、登記記録から消す方法が想定されいないとの指摘について、登記情報527号179頁)。
このように説明しても、「では、錯誤抹消でも不可でしょうか。」と尋ねられますが、錯誤であった場合はそもそも、初めから免責の登記が間違いであったということになり、免責の効果は生じていないことになってしまいます。
個人的には、債務もいずれ消滅時効にかかるので、免責の登記も一定の期間が経過すれば、抹消できるようにした方がいいのではないかと考えます。
事業譲渡や会社分割に関するご相談はもちろん、免責の登記につきましてもお気軽にご相談を
免責の登記は、非常に珍しい登記です。そもそも、司法書士の中でも実際に登記されているを見たことがある司法書士はそう多くないのが実情です。そして、実際に登記したことがある司法書士はそれ以上に少ないです。当事務所は組織再編に関する登記のご依頼も多いため、免責の登記についても多くご相談を承っております。事業譲渡や会社分割に関するご相談はもちろん、免責の登記についても対応可能です。お気軽にお問い合わせください。
著者:代表司法書士 佐々木 翔
東京都世田谷区南烏山4丁目3番8号マノアール世田谷301
司法書士あおぞら法務事務所
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