不動産を「やる」、「譲る」、「継がせる」と記載された自筆証書遺言による登記

「私の土地と建物を妻にやる。」と記載された自筆証書遺言

 以前、「遺言がでてきたので、知り合いの司法書士に遺言による登記の相談をしたのですが、この遺言では登記できないと言われた。」というお客様からご相談を頂きました。遺言は自筆証書遺言で、その遺言には「私の土地と建物を妻にやる。」と記載されておりました。

 実務上、遺言に記載する内容は、相続人に対して財産を渡したいときは「相続させる」と記載します。一方、相続人ではない方に財産を渡したい場合は「遺贈する」と記載します。そして、相続が発生した場合、その遺言の文言に従い、「相続させる」と遺言に記載されていれば、不動産の名義の変更の際の登記の原因は「相続」となり、「遺贈する」と遺言に記載されていれば「遺贈」となります。

 お客様が最初にご相談された司法書士は、「私の土地と建物を妻にやる。」と記載されているため、この遺言による登記の原因が「相続」なのか「遺贈」なのか、不明確なため、この遺言では登記ができないと判断したのだと思われます。

「私の土地と建物を妻にやる。」と記載された自筆証書遺言で「相続」を原因として登記を実行

 確かに、遺言書において、不動産を「やる」と記載されている場合の登記の取り扱いについて、明確な通達や先例はありません。そのため、遺言書に「やる」とある場合の登記の原因は「相続」なのか 「遺贈」なのかは当職にも不明でした。 しかし、それだけで、この自筆証書遺言で登記ができないということはないだろうと考え、お客様に少し時間を頂き調査することにしました。

 最高裁判例において、遺言の解釈は遺言の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探求すべきであるとされています(最高裁判所昭和58年3月18日第二小法廷判決)。そのため、不動産を「やる」と記載されているという理由で、遺言が無効になることは考えられず、また、遺言が無効ではないのであれば、その遺言に基づく登記も受理されるべきだろうと考え、いろいろと調査しました。

 そして、相続人に「やる」「譲る」「継がせる」と記載された遺言において、遺言者の真意を調べる方法はなく、申請人の意思に委ねるしかないため、「遺贈」「相続」いずれの登記原因で申請されても受理せざるを得ない(法務省法務総合研究所編(1996年)『対話式不動産登記【ケーススタディ40選】』日本加除出版 131頁)とする見解があることを知り、これを根拠に「私の土地と建物を妻にやる。」と記載された自筆証書遺言で「相続」を原因とする登記は可能と考える旨を管轄の法務局に照会し、最終的に「私の土地と建物を妻にやる。」という自筆証書遺言で、「相続」を原因とする登記をすることができました。

自筆証書遺言は、必ず専門家に確認を!

 自筆証書遺言は公正証書遺言に比べ、コストがかかりませんが、遺言の内容が不明確な場合は、相続人等が苦慮する場合があります。遺言の内容が問題になるのは、そのほとんどが、遺言を作成された方が亡くなられた後でありますから、遺言の内容・文言の真意は、もはや確認のしようがありません。

 残された方々に迷惑をかけないようにするためにも、そして、自身が意図したとおりの内容が遺言によって実現可能かどうか、自筆証書遺言を作成されたいという方は、お近くの司法書士等の専門家に遺言の内容や文案を確認して頂くことをお勧め致します。

 当事務所でも遺言の作成支援はもちろん、遺言の文案の確認も承っておりますので、お気軽にご相談ください。

内容が不明確な遺言についてのご相談も承っております

 不動産を「譲る」、「継がせる」、「Xが取得する」、「Xの名義にする」という文言の遺言が出てきてお困りの方も当事務所にご相談ください。

 当事務所の調査力、提案力、解決力でお客様それぞれにとっての『あおぞら』へ導きます。お気軽にご相談ください。

著者:代表司法書士 佐々木 翔


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