企業秘密を含む事項が記載された取締役会議事録の写しを法務局に保管されたくない場合の対応や工夫について

企業秘密を含む事項が記載された取締役会議事録を法務局へ提出したくないというご相談とその理由

 ある株式会社の法務部から「今度の取締役会において、第1号議案で自己株式の消却の決議をし、第2号議案以下で、他社に知られたくない企業秘密に関する議題を決議することになっているが、企業秘密が外部に漏れる危険性から取締役会議事録を法務局へ提出したくないがどうしたらいいか。」というお問合せを頂きました。

 自己株式の消却については、発行済み株式総数に変更が生じるため、登記する必要があり、自己株式の消却を決議した取締役会議事録を法務局へ提出する必要があります。実務上、取締役会議事録の原本とあわせてそのコピーも提出し取締役会議事録の原本を還付する手続きを行いますが、この取締役会議事録の原本のコピーは、登記申請書とともに法律で定められた期間、法務局で保管されます。法務局に保管される理由は、訴訟等、何かあった時に、利害関係人が、登記申請時に提出した取締役会議事録の原本のコピーを閲覧することができるようにするためです。

 お問合せを頂いた株式会社の法務部は、利害関係人が閲覧した時に企業秘密も一緒に閲覧されてしまうリスクを懸念しているとのことでした。
 懸念事項についてですが、平成28年の関係法令の改正により申請書の添付書類の閲覧をするためには、厳格な要件が必要になりましたので、通常であれば心配はなかろうと思慮致します。しかし、要件を満たした場合は、利害関係人に取締役会議事録は閲覧され、企業秘密も閲覧されてしまうリスクは少なからず生じるため、株式会社の法務部としては、なるべくリスクヘッジしたいということのようでした。

 このような場合、会社法、商業登記法に違反しないかたちで、どのようにしたらよいでしょうか。いくつか対応や工夫の仕方はありますので、順にお話しします。

取締役会を2回に分ける

 登記申請に添付する取締役会議事録に、企業秘密を含む議題が含まれることが予めわかっている場合、取締役会を2回に分ける方法があります。

 具体的には、上記の例において、取締役会を開催するのであれば、10時00分から開会し、登記事項である自己株式の消却を決議し、10時10分に一度閉会する、そして、10時10分から再度取締役会を開会し、他社に知られたくない企業秘密に関する議題等を決議するという方法です。

 この場合、法務局に提出する取締役会議事録は、10時00分から開会し、10時10分に閉会したもののみで足り、10時10分から開会した他社に知られたくない企業秘密に関する議題等を決議した取締役会議事録は不要です。

 この方法は一番簡単ではありますが、会社の法務担当者様からは、「取締役会を1度閉会し、再度開催するということは、違和感があり、役員から理解が得られないことがある。」、「取締役会議事録を2通作成する必要があり(10時00分から開会し、10時10分に閉会したもの、10時10分から開会した他社に知られたくない企業秘密に関する議題等を決議したもの)、面倒である(出席役員の印鑑を2通分頂くのが難しい等)。」というお声を頂きます。

 また、取締役会を2回に分ける場合は、取締役会が行われる前に2回に分けるように取締役会を運営する必要であり、取締役会終了後には、この方法は用いることができないというデメリットがあります。なぜなら、取締役会を2回に分けていないにもかかわらず、2回に分けた取締役会議事録を作成することは、虚偽であり、「議事の経過の要領及びその結果」を取締役会議事録に記載しなければならないとする会社法に違反するものと当職は考えます(会社法施行規則第101条第3項第4号)。

 また、会社様の中には、法務局提出用と会社保管用と取締役会議事録を2通作成され、企業秘密を含まない取締役会議事録を法務局へ提出用とする会社様もあるようですが、これでは、どちらが原本なのか不明であり、登記申請書に添付すべき書面は、特に規定がない限り、原本であること要し、謄本では足りない(味村治(1996年)『新訂 詳解商業登記〔上巻〕 』きんざい 211頁)とされていることを踏まえると、法務局に提出した取締役会議事録と会社に保管されている取締役会議事録が異なるということは、認められないと当職は考えます。

全て記載された取締役会議事録と、登記に必要な部分だけをコピーした取締役会議事録を法務局に提出する方法(昭和52年11月4日法務省民四第5546号民事局第四課長回答)

 先例において、全て記載された取締役会議事録の原本と、登記に必要な部分だけをコピーした取締役会議事録を法務局に提出し、取締役会議事録の原本を還付することが認められております(昭和52年11月4日法務省民四第5546号民事局第四課長回答)。

 具体的には、上記の例でいえば、第1号議案の自己株式の消却の決議の部分と法令上、取締役会議事録に記載が必要とされている事項(開催日時、場所、議事録作成者等)をコピーし、第2号議案以下の他社に知られたくない企業秘密に関する議題等についてはコピーをしない(目隠し等する)取締役会議事録を登記申請の際に法務局に提出する方法です。

 この方法であれば、取締役会を2回に分けていない場合であっても、利用できます。

 注意点としては、登記に必要な部分だけをコピーした取締役会議事録と一緒に全て記載された取締役会議事録を一度は法務局に提出する必要があるという点です。登記官が、原本とコピーの照合する必要があるため、登記に必要な部分だけをコピーした取締役会議事録のみ提出すればよいということではありません。

 この場合、法務局に保管されるのは、登記に必要な部分だけコピーした取締役会議事録なので、利害関係人に閲覧されることになっても、企業秘密が閲覧されることはありません。 

 また、商業登記に関しては、不動産登記と異なり、原本とコピーを窓口で見せれば、その場で原本とコピーを照合してもらえ、問題なければ、原本をその場で返却して頂けます。その確認作業の時間は、ほんの数分で完了するのが通常ですので、そのほんのわずかな時間で企業秘密が漏洩することはないほとんどないかと思慮致します。

 なお、登記に必要な部分だけをコピーした議事録の具体的な作成方法ですが、昭和52年11月4日法務省民四第5546号民事局第四課長回答の解説によりますと、省略する場合の具体例として、「第〇号議案 〇年度決算書類承認の件・・・省略」とするようで、登記に関係ない部分を上記のように省略とした議事録を作成するかのように読めますが(登記研究編集室編(1992年)『増補 商業・法人登記先例解説総覧』テイハン 97頁)、実際、そのように議事録を作成しなければならないというわけではありません。当職は複数回、登記に必要な部分のみコピーした議事録を作成し、原本と合わせて提出し登記が受理されております。お問い合わせを頂ければ、対応致しますのでお気軽にご連絡ください。

企業秘密を含む議事録を提出したくないという会社様は当事務所にご相談ください

 企業秘密を含む議事録を提出しない方法についてお話致しました。全て記載された取締役会議事録と、登記に必要な部分だけをコピーした取締役会議事録を法務局に提出する方法にて登記申請した経験も豊富ございます。ご依頼頂いた際に伏せてほしい事項があれば、その旨お伝え頂ければ、可能な範囲で対応致します。また、会社様の実情に合わせた形での方法のご提案もさせて頂きますので、お気軽にご相談ください。

著者:代表司法書士 佐々木 翔


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