清算結了登記をした株式会社の名義のままとなっている不動産の所有権移転登記を実行しました。
清算結了登記をした株式会社の名義のままとなっている不動産がある場合、所有権移転登記をする方法はありますが、まず、当該不動産の処分が、当該名義人である株式会社の清算結了登記の前に済んでいたのか否かを確認する必要があります。
今回、当事務所が対応した事案(以下、「本件」といいます。)では、不動産の処分は完了していましたが、当該不動産の所有権移転登記を遺漏したまま、清算結了登記がなされておりました。また、当該株式会社の清算人は数年前に死亡しておりましたが、当該株式会社の株主は、判明しておりご存命という事案でした。
裁判所に清算人の選任の申立をすべきかの検討
まず、本件において、清算人が全員死亡していたため、裁判所に清算人の選任の申立をすべきかどうか検討しました。
本件のような事例の場合、よく参照される先例として昭和38年9月13日民事甲第2598号通達があります。この先例の要旨は、『株式会社の清算結了後清算人の全員が死亡している場合において、清算結了前に消滅していた抵当権登記の抹消を裁判所の清算人の選任審判書を添付して申請があった場合はその申請を受理して差支えない』というものです。(登記研究室編(1999年)『増補 不動産登記先例解説総覧』 テイハン 1505頁)
この要旨だけ読みますと、抵当権の抹消の事例ではありますが、本件においても、この先例に従い、裁判所に清算人の選任の申立をする必要があるようにも思えます。しかし、この先例の原文を読みますと、「~清算人が全員死亡し、当時の株主も不明である。」とあり(前掲 1505頁)、この先例は、当時の株主も不明であることが大前提としてあることが読み取れます。
本件では、当該株式会社の株主は判明している事案でしたので、上記の先例と前提が異なります。
また、裁判所に清算人選任申立を行う場合には、会社法第478条第1項所定の方法(定款に清算人となる者の定めがある場合、株主総会の決議によって取締役以外の者を清算人に選任した場合又は取締役)によって清算人となる者がいないことが要件となります。(大竹昭彦他編(2020年)『新・類型別会社非訟』 判例タイムズ社 73頁)
本件では、当該株式会社の定款に清算人の定めもなく、また、取締役も存在しませんでしたが、当該株式会社の株主は判明しているため、当該株主において、株主総会の決議によって清算人を選任すれば足りると当職は考えました。
念のため、上記の考えを管轄の裁判所に確認したところ、当職の考えのとおりであり、最終的には、裁判官の判断にはなるが、仮に申立をされてたとしても選任されない可能性が高いとの回答を得ました。
清算結了登記を抹消すべきか否か及び清算結了後の株主総会決議で選任した清算人から登記申請の可否の検討
次に、清算結了登記を抹消すべきか否か及び清算結了後の株主総会決議で選任した清算人から登記申請の可否の検討を行いました。
この点について、少々古いですが、清算結了登記を抹消せずに登記ができるとする見解(登記研究24号25頁)及び清算結了後の株主総会決議で選任した清算人から登記申請を可とする見解(登記研究38号30頁)がありますので、当職は可能と判断しました。
上記を根拠に、裁判所からの回答も併せて当職の見解(本件では添付書面等の確認も含め)を記載した照会状を管轄の法務局へ提出し、後日、「貴見のとおり」との回答得ました。
法務局からの回答に基づき、登記申請を行い、登記が完了しました。
清算結了登記をした株式会社名義不動産の所有権移転登記や保存登記のご相談は当事務所へ
調査や裁判所・法務局の確認があり、完了まで少々お時間を頂きましたが無事に登記完了となり、ご依頼人様も喜ばれておりました。
当事務所は、自己研鑽を積み、提案力・解決力・実行力にさらなる磨きをかけながら、日々、複雑な案件に対応しております。
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著者:代表司法書士 佐々木 翔
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