【中小企業の株式の管理】名義株の解消の実務 ~事業承継、M&A等に向けて~

名義株とは何か?概要とその問題点

 名義株とは、会社法等の法令上に定義はありません。ですが、一般的に、『他人名義を借用して株式の引受け及びその払込みがなされた株式をいい、結果として真実の所有者と名義上の所有者が異なる株式』をいうとされています。

 名義株が生じる原因としては、平成2年改正前旧商法において、株式会社の設立に当たり7名以上の発起人が必要とされていたことから、親族あるいは従業員などの他人名義を借用し、形式的に7名以上の発起人をそろえて株式会社を設立する事例が多発したことが挙げられます。また、相続税の課税を回避する目的、大量保有の状況に関する開示制度を回避する目的等によりあえて他人名義を借用している事例もあるとされ、これも名義株が生じる原因となっているとの指摘もあります。なお、過去に行われた株式の贈与や売買等の事実が株式会社に伝わらなかったことによって株主名簿の書換えが適正に行われていない場合も広い意味で名義株とされております。 

 名義株を放置し、真の株主と名義上の株主とが一致していないと、次のような問題があります。

① 相続の際、名義借人である被相続人の相続財産の把握が困難になり相続財産の承継が適正に行われない可能性が生じる。
②名義貸人である被相続人の相続人に相続税が課せられる。
③名義株式が相続により分散してしまう。
④事業承継、M&A等による株式の売却、会社の清算における残余財産の分配及び組織再編等の際その行為がスムーズに進行しない。
⑤名義株が同族会社の判定にまで影響する場合は税務上重大な問題が生じる。
⑥名義上の株主から、突然株主の権利が主張され、真の株主との間で紛争となる可能性がある。

(以上、後藤孝典他著(2015年)『中小企業における株式管理の実務』日本加除出版 33頁、34頁参照)

名義株の真の株主は誰?

 名義株の真の株主は誰になるのか、この点につき、最高裁判所昭和42年11月17日判決においては、「他人の承諾を得てその名義を用い株式を引き受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるものと解するのが相当である」と解しています。
 また、東京地裁昭和57年3月30日判決において、真の株主の認定基準として以下の基準が示されました。

① 株式取得資金の拠出者
② 名義貸与者と名義借用者との関係及びその間の合意内容
③ 株式取得(名義変更)の目的
④ 取得後の利益配当金や新株等の帰属状況
⑤ 名義貸与者及び名義借用者と会社との関係
⑥ 名義借りの理由の合理性
⑦ 株主総会における議決権の取扱い及び行使の状況

(以上、前掲 41頁参照)

名義株の解消方法

 ①合意による名義株の解消

 名義株主と名義株の解消につき合意できる場合は、名義株主と名義株の状況について確認し、合意書を作成のうえ、株主名簿の書換え手続きを実施することとなります。

 ②強制的な名義株の解消

 合意による名義株の解消ができない場合は、強制的な名義株の解消を行うことを検討する必要があります。具体的には、相続時売渡請求、株式併合、特別支配株主の株式等売渡請求による方法を検討することとなります。

 ③名義株主が所在不明となっている場

 歳月を経ることで、所在不明となっている場合も考えられます。また、名義株主に相続が発生し、相続人がまったくわからない状況も想定されます。そのような場合には、所在不明株主の対応を検討することとなります。

 なお、名義株式の解消を行う場合、法人税の申告書における別表二の内容も変更することになります。そのため、税務上問題とならないか、関与する顧問税理士を通じて、必ず事前に確認すべきと考えます。

 やむを得ない事情により名義株の状態を継続させる場合

 これは名義株の解消にはならないですが、やむを得ない事情により、名義株の状況を継続せざるを得ない場合もあります。真の株主と名義株の状況を確認できるのであれば、株主間契約等を締結し、名義株の状況を明確にしておくことが望ましいと考えられます。

名義株の解消に関するご相談を承っております。

 中小企業においても、株式会社において、株主名簿の作成が義務付けられております(会社法第121条第1項)。ですが、中小企業において適切な株主名簿を作成していない株式会社が多い印象を受けます。

 名義株を解消することで、将来の紛争を防止し、安定した経営や事業承継、M&A等への対応が可能となります。

 当事務所では名義株の解消に関するご相談を承っております。名義株に関するご相談、その他各種お問合せは下記のお問い合わせフォームよりお問い合わせください。

著者:代表司法書士 佐々木 翔


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司法書士あおぞら法務事務所