支店設置の登記
株式会社が、支店を設置した時は、会社の本店所在地において、支店設置の登記をしなければなりません。支店の設置は、取締役会の決議(取締役会を置いていない場合は、取締役の過半数の一致)により、支店の場所や支店設置の時期等を定めることによって行います。支店設置の登記に必要な書類は、上記のとおり、取締役会議事録(取締役会を置いていない場合は、取締役の過半数の一致を証する書面)です。(司法書士へ依頼する場合は委任状、会社の代表者様又は担当者様の本人確認等に関する書類も必要となります。下記の合同会社の場合も同様となります)登録免許税は支店1か所につき6万円です。(松井信憲(2025年)『商業登記ハンドブック 第5版』商事法務 204頁)
合同会社において支店を設置した場合も、同じく登記する必要があります。必要な書類は、定款に別段の定めがない場合は、業務執行社員の過半数の一致を証する書面です。(立花宣男(2008年)『持分会社の登記の手続』日本法令 553頁~554頁)
なお、以前は、支店所在地においても支店設置の登記をする必要がありましたが、令和4年9月1日から、会社の支店所在地における登記が廃止されております。
「支店」とは?
よく「本店とは別に事務所(支部、出張所)を設置したのですが、支店の登記は必要でしょうか。」とのお問い合わせを頂きます。
まず、「事務所」、「支部」、「出張所」など、その名称のいかんを問わず、「支店」の実態を有するものであれば、支店の登記が必要です。(稲葉威雄他編(1992年)『新訂版 実務相談株式会社法1』商事法務研究会 486頁、なお、稲葉威雄編(2004年)『実務相談株式会社法 補遺』商事法務 628頁も参照した。)
では、「支店」とは何か。定義はあるのでしょうか。
『支店とは、本店とは別に独自に営業活動を決定し、対外的な取引をなし得る営業所の実質を備えるものをいう』とされているおりますが、『実質的に支店にも当たらないような支部や出張所の区別は事実問題であり困難な場合がある』ともされております。(松井信憲(2025年)『商業登記ハンドブック 第5版』商事法務 204頁)
このように支店か否かの判断はケースバイケースであり、判定が困難だと思慮致します。そこで、判定の参考になるように、以下、過去の判例等を調査しました。下記の判例等を参考に、『本店とは別に独自に営業活動を決定し、対外的な取引をなし得る営業所の実質を備えるもの』かどうか検討して頂ければと存じます。
支店と認められたもの
① 相場の著しい変動があるものを除き、肥料の仕入れを独自の判断で行い、それを販売し、代金の回収、販売に伴う運送を行い、日常の経費は、その取立金で賄い、銀行に預金口座を設けていた出張所(最高裁判所昭和39年3月10日判決)
② 緊急を要するときは、小工事について本社に連絡することなく出張所長において契約を締結し、そのために必要な資材の購入、代金の支払等をしていた出張所(最高裁判所昭和37年9月13日判決)。
③ 支店長名義の当座預金口座及び支店において小切手帳、社長印を保管する社長名義の当座預金口座はあったものの、その振出は著しく制限されていたが、敷地、施設(かなり広い敷地に事務所、待合所、車庫、車体工場等の施設があった)、乗合自動車数(約40台を所有)、従業員数(約130名)を考慮して支店と認められたもの(広島高等裁判所松江支部昭和31年11月9日判決)
④ 本店工場で製造した小型車両の販売、集金、部品の購入、修理を行い、銀行に普通預金口座を開いて送金、必要経費の支弁などに利用していた出張所(東京高等裁判所昭和33年7月14日判決)
※上記①~④につき、味村治(1996年)『新訂 詳解商業登記〔上巻〕 』きんざい 599頁~603頁から引用
支店と認められないもの
① 新規保険契約の募集と第1回保険料徴収の取次のみが業務のすべてであった保険支社(最高裁判所昭和37年5月1日判決)
② 原料を入手してこれを本店の直属工場へ発送することものみを行い、会社の基本的営業行為には全く関与しない出張所(大阪高裁昭和36年11月29日判決)
③ 月賦販売希望申込者の勧誘募集、第1回建物月賦金の受領及びその取次のみを行う支部(名古屋高裁昭和30年2月1日判決)
④ 事務所の規模が小さく、重役から相当詳細な具体的指示監督を受け、経理の独立、所員の任免権の有無等本社から独立して営業をなし得る実体を備えていることが認められない出張所(東京地裁昭和30年8月24日判決)
⑤ 官庁との折衝、関係販売会社との連絡、同業者等の集合の斡旋、本店の指示に基づく月200万~300万円程度の商品の仕入等の事務を行うにすぎない出張所(東京地裁昭和32年9月14日判決)
⑥ 鉄道会社の各駅停車場(明治29年12月2日民刑局長回答)
⑦ 支店において運送契約を締結することなく、すべて本店における運送契約に基づいて、本店の指示により運送業務が行われ、貨物を集積し、取次を行う用務員が駐在しているにすぎない貨物取次所
⑧ 対外的に何ら取引も独立もしていない製造会社における製品の取扱場所
※上記①~⑥につき、味村治(1996年)『新訂 詳解商業登記〔上巻〕 』きんざい 600頁~606頁から引用
上記⑦~⑧につき、稲葉威雄他編(1992年)『新訂版 実務相談株式会社法1』商事法務研究会 480頁~485頁から引用、なお、稲葉威雄編(2004年)『実務相談株式会社法 補遺』商事法務 628頁も参照した。
株式会社の支店には、原則として株主総会議事録等の写しを備え置く必要があります
株式会社の支店には、原則として株主総会議事録の写しを備え置く必要があります。(会社法第318条第3項)
また、原則として計算書類等の写しを備え置く必要もあります。(会社法第442条第2項)
定款に関しても原則として支店に備え置く必要があります。(会社法第31条第1項)
支店であるならば、原則として上記の備え置きをする必要があります。忘れられがちですが、会社法上の義務ですので、お忘れなきようにご注意ください(例外に関しては、今回は割愛致します)。
当事務所では、「登記だけしてお終い」ではなく、企業法務に携わる法務部の方等に、登記だけにとどまらない会社法に関するアドバイスもしております。
支店の設置、移転、廃止の登記についてご相談は当事務所まで
支店か否かの判定に参考となる判例等のご紹介を中心にお話致しました。判例等を検討してみることにより抽象的な定義からより具体的な支店の定義を見出せるかと存じます。支店の登記には、設置の他、移転、廃止の登記がございます。いずれの登記に関しましても弊所で議事録等の作成から登記申請まで一貫して対応可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
著者:代表司法書士 佐々木 翔
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司法書士あおぞら法務事務所
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